【もったいない食堂物語】第1章

第一章:「もったいない食堂」を知ってますか?

その日は都内にある格式あるホテルで、
外務省の主催するパーティに招待されていました。
もちろん正式な客というよりも、
昨年参加した国際会議のご褒美として
晴れの舞台の端っこにお呼ばれされる程度^^;。
とはいえ、由緒正しい場所でのイベント。
適当に参加するわけにもいかないし。
現地でお世話になった方もいらっしゃっているという。

久しぶりの再会を楽しみに会場へ向かったものの、
食事時間にあたるパーティであることを思うと、
やや足取りが重かったのも事実です。
というのも、先日そのホテルで参加した結婚式の食事が、
以前とした日本型ご馳走:
御頭付きの魚とローストビーフとお寿司とケーキ
を同時に出すようなものだったことを思い出し、
食事はできれば避けたいなと内心思っていたから。

まぁ、あまりワガママも言ってられない。

だって別に自分が主役のパーティではないし。
おとなしくしてようと、
MY箸だけ掴んで家を出て会場へと向かうKAORU

会場で再会した仕事仲間のT氏と、お互いの近況報告。
北海道から戻ってきたばかりのT氏に現地の話を伺う。
来週は札幌へ出張の予定。
一次産業の悲壮な現状を伺うと、胸が痛む。
食料自給率をどうするのか、日本の農業をどうするのか。
二年近く、集中してこのテーマに取組んでいるのに、
まだ、理想的な答えが見えてきません。

「食」の問題に関心を持ったのはここ数年のこと。
現場を回ってヒアリングをしたり、
一緒に農業体験をさせて頂いたり。
大規模農場から家族経営の菜園まで、色々見ながら
働く人、買う人、食べる人の話を聞いてまわりました。

国内、国外、両方です。

生産方法や法律のことを勉強しなければならないのはもちろんですが、
私が気になるのは「食べられるのに捨てられてしまう食料」。

そもそも、食べ物を捨ててしまうことに対して、
かなり抵抗感があるほうだと思います。
自分で料理する時も、なるべく捨てたくないから、
という理由で無農薬野菜を選ぶようにしているほど。

だから、その日招待されていたような、
ホテルのバイキング形式の食事は
あまり得意ではないのです。

食べるのも、見ているのも。

苦手にもかかわらず、その瞬間の私は、
捨てられてしまう食料に囲まれていました。
立ち話をする私たちの周りには、
各国大使のために用意されたご馳走が、
ぐるりと並んでいたけれど、
みなさんは名刺交換や「非公式」の会話に夢中で、
殆ど誰も料理を食べていないのです!

温かいパスタが卓上コンロで伸びていき、
お寿司の色が元気を失うのをみているのは辛いもの、、、(涙)

(あぁ、この料理も、結局捨てられちゃうんだろうなぁ)

と心の中でぼやきながら、
少しでも廃棄される量を減らそうと食事に精を出す私。
誰も手をつけない料理を摘みながら、
「こんなに料理作っても誰も食べないなんて勿体無いね」
と口にした矢先、

「『もったいない食堂』って知ってる?」

と聞かれたのが全ての始まりでした。




「もったいない食堂!?」

口がお寿司でいっぱいだったにも関わらず、
気になってすぐに聞き返す私。
お行儀が悪いのは見逃してください。

一体何がもったいないというのかしら。

「余り物」を捨てるのが「もったいない」ので、
残ったものでも食べさせるとういこと?

まず頭の中にひらめいたのは「食の再利用」。

そのちょうど一ヶ月前、
私は日本最大規模(かもしれない)と
言える食品リサイクルの現場を見てきたばかりだったから。

工場から出される廃棄用食物残渣、
それはカップラーメンのかけらから、
菓子パンのクリームから、
出汁をとり終えた後の鰹節の糟まで、
様々なものがリサイクル工場に集められ、
牛や豚の飼料が作られる現場をつぶさに見てきたところでした。
毎日毎日、トラックいっぱいの「残渣」が集められるというその工場。
「残渣」の殆どは、工場に届いた時点でも普通に食べられるものですよ、
といって案内してくれたNさんが、山積みなっている「残渣」に手を突っ込んで、
バリバリと食べ始めた時には度肝を抜かれちゃった。
彼が食べていたのは
欠けてしまい、売り物にならなくなってしまったお煎餅。
品質的には何も問題ないよ。
と、身を持って証明してくださった。

そんな光景を思い出しながら、
飼料にする前に人間に食べさせるイメージが
頭の中に沸いたのです。

「もったいない食堂って何?」
わからないことは素直に聞いてみる。
すると、
「先日テレビで見ただけだから、詳しいことは知らないけど、九州にある食堂で、食材を無駄に使わないことを心掛けているらしいよ」
と面白いキーワードがするすると彼の口からもれてきました。

九州?
無駄にしない?

「もったいない食堂に行かなくちゃ!」


頭の中で、信号が青サインに切り替わるのを感じました。
そうだ、今すぐもったいない食堂に行かなくちゃ!
もう一度口でつぶやいて、すぐさま手帳を確認するKAORU

九州のどこにあるのか、
誰が経営しているのか、
どういう仕組みなのか、
全くわからない。
どのテレビ番組で放映されたのかもわからない。
わからないことだらけではあったものの、
気持ちは既にもったいない食堂に飛んでいたのです。

一体どんな場所なんだろう?
何が食べられるんだろう?
どんな人が来てるんだろう?

知りたいならば、行かなくちゃ!


(続く)